怖い話特集
田所君は翌日、学校を休んだ。

そもそも体調不良で1週間休んでいたこともあり、また具合が悪くなったんだろうか、と誰もがそう考えていた。

しかし、田所君はその翌日もそのまた翌日も学校を休んだ。

そんなに悪かったのか、と不安になった俺達は、先生の元にいきお見舞いに行きたいです。と言った。

ところが、先生は首を横に振った。

先生いわく「田所くんのところは今大変だから、見舞いには行くな」

俺たちは驚いた。

大変て、もしかしてかなりやばい病気とか? 

ひょっとして、あの日無理してたのか? 

など、さまざまな憶測が飛んだ。

そして田所君が休んで約2週間、先生の口から事実が語られた。

田所君はあの日、「蓋の話」をした日から行方不明になっていた。

先生も、田所君の親があまり話そうとしないので詳しい話を知っているわけではなかったが、どうやら田所君くんは、『蓋の話』をした日に家に帰らなかったようで、
それ以来行方が分からなくなっているらしい。 

既に警察も動いていて、誘拐もありえるとのこと。

彼の最後の目撃情報は、『蓋の話』をした夕方、最寄の駅で見かけたというものだ。

いったい田所くんはどこに行ってしまったのか。

駅以降の田所君の足取りをつかめないまま1月が経ち、警察も継続捜査という形で対策本部を解散した。

田所くんの家族もそれを了承したらしい。

だが、俺たちは田所くんの居場所を知っていた。

あまりにもばかばかしくて、でもそれ以外ありえないと思っていた。

それに気付いたのは、先生から田所くんが行方不明になったと聞かされた日の放課後だった。 

その日から公開捜査に切り替わり、誘拐の線もあるから、ということで午後の授業は中止。帰りはもちろん集団下校。

一度家に帰り、その後近場の公園にみんなで集まった。

「行方不明」というあまりに日常からかけ離れた事態にどうしていいかわからず、その日はみんな静かだった。

ぽつぽつと彼の話をしているうちに、その場にいたみんなが同時にあることに気付いた。

田所くんは『蓋の話』をしたとき、言うべき言葉を言わなかった。

あの時感じた小さな違和感の正体。

それは、彼の話に『これは僕が考えた話なんだけど』という言葉が抜け落ちていたことから来るものだった。

それに気付いた瞬間、全員が「ああ、そういうことだったのか」と奇妙に納得した。

あの話は、実話だったのだ。
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