逃がすもんか!
そんな陰湿な罪を、彼は笑って許してくれた。
ただし、条件付きで。
「これ、僕の連絡先です。僕のことが本当に知りたいなら、もう一度だけチャンスをあげます。」
「チャンス? 何のチャンス?」
「昨晩の出来事を取り返すチャンスですよ。僕はあなたと結婚の約束をしました。それから、個人的なことを根掘り葉掘り訊くだけ訊いて、あなたは自分の名前も、仕事も、年齢も、何も言わなかった。」
酔うと私はここまで厚かましい人間になるらしい。
「まあでも、結婚の約束はなかったことにします。僕にもあなたのこと全く知らないで結婚の約束をしてしまった罪があるので……。ただ、もし、あなたが酔っぱらって言った言葉が本当なら、本心なら、そして、僕のことを少しでも知りたいと思ったら連絡してください。昨晩と同じ時間、同じ居酒屋で一緒に飲みましょう。」