逃がすもんか!
認めたくないものだな、年老いた故の、若さ故の過ちを指摘する姿勢というものを
「ヘアカラー剤って発ガン性物質が含まれてるって知ってましたか?」
「知らない。」
というか、どうでもいい。
「毒性は農薬のおよそ140倍。しかも、頭皮に入り込むと、そのほとんどが排出されずに、蓄積するらしいです。だから、ホームカラーは絶対NG。あと、美容院で染める時は、頭皮に付かないような塗り方をお願いするのがいいですよ。」
本当にどうでもいい話。こんな話を聞くために、わざわざ見たいドラマを犠牲にしたと思うと、バカらしい。まあ、録画予約はしてあるけどさ。
「あれ? 今日はあんまり飲まないんですね。」
「『今日は』って言い方、何となくトゲがある気がする。」
「そんなことないですよ。気のせいです。」
佐田はタバコに火を点けた。ヘアカラー剤に含まれる発ガン性物質は気にするくせに、タバコに含まれる発ガン性は全く気にしていないらしい。
でも、聞いたことがある。口から入れる毒素と、皮膚から入れる毒素、どちらが排出されにくいか。その答えは後者だと。