逃がすもんか!





経理課の同期、あさみに佐田に酔った勢いで結婚の約束をしてしまったことを話した。



いつもの短いお昼休みの時間、20分くらい並んで入った定食屋で山菜そばを啜る私を他所に、あさみは、ヒレカツ定食を食べていた。



「お昼にヒレカツって、仕事に支障とかないわけ?」



「私たちの仕事に支障があるのって、目が見えなくなったり、足が動かなくなったりくらいじゃない? 経理は雑務。これ、入社してすぐに上司から言われたことじゃない。」



本当にその通りだ。経理は雑務。雑用。営業課の精算書の不備や計算間違いにイライラしながら、処理していくだけの仕事。キャリアウーマン? そんな言葉は綺麗事でしかない。



「そう考えると、何のために日商なんて資格取ったのかわからないよね。」



「言えてる。でも、いいじゃん。特に難しいこともないし、営業課の誰々は仕事ができる、できないっていうのが、精算書見れば一発でわかるし。経理課はね、営業課の添削係でもあるんだと最近思うようになった。」



あさみみたいに、何でもポジティブに考えれるようになると、どんな仕事でも楽しくできて、人生を明るく終えられるんだと思う。



でも、私は元々何に対してもネガティブ思考な性質で、こうやって山菜そばを食べながらも、「この山菜は、ゴボウと朝鮮朝顔の根っこみたいに、見分けがつきにくくて、本来は食べられると思われているけど、実は食べられない方のやつを間違って、入れてしまってないかな?」なんて考えてしまう。




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