逃がすもんか!
「ドライブなんて、久しぶり。いい景色ね。」
車窓はすっかり海に変わっていた。潮と芳香剤とタバコとコーヒーの匂いが混ざり合って、何とも言えない。でも、佐田は私にそう言わせるためにここを走っているのだ。男にしてやる。
「でしょう? ここ、僕のお気に入りの道なんです。」
へえー、こんなところがお気に入りなんだ。お気に入りなのに信号待ちのたびに熱心にカーナビをチェックしてるんだ。なんて言わない、言わない。男にしてやる。
「あ、そうだ。松野さん、しらす丼好きですか?」
「あ、うん。好き。」
本当はそんなに好きじゃない。出てくれば食べるし、食べなくても別にいいくらい。男。
「この近くに美味しいお店があるんですよ。行ってみますか?」
「うん! 楽しみ!」
そりゃそうだろう。鎌倉まで来たんだ。しらす丼がまずいお店を探す方が大変だ。ダメ、ダメ。男。男。