逃がすもんか!
「じゃあもし、卒業後に役者になれるとしたら、佐田くんは鍼灸師と役者、どっちをとるの?」
「どっちというか、僕はもう既に役者なんで。」
言ってる意味が分からない。
「どこか事務所に所属してるの?」
「いえ、してないですけど、役者なんです。役者って看板ぶら下げれば誰でも役者になれるんですよ。」
「じゃあ、私もなれるの?」
「なれますよ。自主制作とか小劇団とかそういうものなんです。ネットで『役者募集(初心者OK)』なんて書き込み、いくらでもありますからね。」
「佐田くんは今までにどういう作品に出たことがあるの?」
「大学生の卒業制作が1本と、仲間内でやってる自主映画が2本。あとは舞台が2本ですね。」
へえー、そう。
「じゃあ、二足の草鞋ってわけだ。」
「そういうことになります。あ、松野さんもよかったら一度、僕の舞台、観に来てください。」
「そうね。是非招待して。」
暇だったらね。と心の中で付け加えた。