逃がすもんか!
キスマークには、愛情表現だけじゃなく、他の女に取られないようにとマーキングの意味を持っている
佐田と付き合うようになってから、私は変わった。
それは、部活の顧問が離任して、新学期に新任の先生が顧問になった部活と同じかもしれない。
だから、もし佐田がビジュアル系バンドが好きなら、私も赤くヘアカラーして、発ガンリスクを高めただろうし、サーフィンが好きだったら、肌を小麦色に焼いていただろう。
私はなんでも佐田に合わせるようになった。例えば会社帰りにいちごのショートケーキを買って行ってあげたら、佐田はいちごを先に食べる人だということを知った。
私は、断然いちごは後に食べる派だった。美味しいものを後に残した方が、食べ終わった時により満足感を得られるからだ。佐田はそれをおかしいと言った。
「それってつまり、食べ始めはまずいものからってことになるだろ? それよりも、口の中がリセットされた状態で、美味しいものを入れた方が、よりその美味しいものの美味しさが伝わると思うんだよね。」
私はなるほどと思い、以来佐田を習って、そういう風に食べるようにした。
そして、もう一つ変わったことは、タバコを吸い始めたことだ。もちろん、銘柄も佐田と同じにした。佐田が好きなものはなんでも好きになりたかった。