逃がすもんか!
佐田がスマホを充電器から抜いて、時間を確認し、ポケットに入れた。
「もう帰るよ。」
「もう帰るの?」
「うん。終電なくなるといけないし。」
佐田は靴を履きながら言った。私はそんな佐田の背中に抱き着いた。
「やだ。帰らないで。」
「明日、舞台の稽古なんだよ。」
「休めばいいと思います!」
「ダメ。」佐田は私の頭をクシャクシャに撫でた。
「そうやって前もサボったんだから。」
玄関先でキスを5回、ハグを6回して、バイバイした。それから、テーブルに置いたままのデリバリーピザの空箱、取り皿、空き缶、ペットボトルの片づけを済ませて、シャワーを浴びながら、佐田に付けたキスマークの位置と数を頭の中で反芻した。
キスマークには、愛情表現だけじゃなく、他の女に取られないようにとマーキングの意味を持っている。