逃がすもんか!





佐田がスマホを充電器から抜いて、時間を確認し、ポケットに入れた。



「もう帰るよ。」



「もう帰るの?」



「うん。終電なくなるといけないし。」



佐田は靴を履きながら言った。私はそんな佐田の背中に抱き着いた。



「やだ。帰らないで。」



「明日、舞台の稽古なんだよ。」



「休めばいいと思います!」



「ダメ。」佐田は私の頭をクシャクシャに撫でた。



「そうやって前もサボったんだから。」



玄関先でキスを5回、ハグを6回して、バイバイした。それから、テーブルに置いたままのデリバリーピザの空箱、取り皿、空き缶、ペットボトルの片づけを済ませて、シャワーを浴びながら、佐田に付けたキスマークの位置と数を頭の中で反芻した。



キスマークには、愛情表現だけじゃなく、他の女に取られないようにとマーキングの意味を持っている。




< 32 / 50 >

この作品をシェア

pagetop