逃がすもんか!





どうして佐田のことをこんなに好きになってしまったのか、わからない。



いけない恋だってことは、頭ではわかっている。



そもそも付き合っているのかどうかもわからない。というのも、私は佐田に告白していないし、佐田も私に告白していない。ただ、酔っぱらった状態で結婚の約束をしているだけの関係。ただ、それだけ。



ううん。充分。だって、結婚するのだから。それも、社内婚や合コン、婚活パーティーなんかで知り合った妥協婚なんかじゃない。運命的に出会った好き同士の二人が、一緒になる少女漫画みたいな結婚だ。



私は今からでも結婚したかった。私が彼を養う。佐田は何もしなくていい。役者を目指しながら家事をしてくれたら、傍に居てくれたら何もいらない。



「あなた以外、何もいらないの。」



声に出すと、恥ずかしくなって、余計に佐田のことが好きになる。



「佐田くん、大好き!」



また声に出すと、より一層好きになって、さっき会ったばかりなのに早くも会いたくなって、お風呂を出た。



スマホを濡れた手で操作して、「佐田くん、大好き!」とメッセージを送った。既読のマークが付いて、「オレも祥子さんが好き!」って返って来た。



それだけの幸せを、一体どれだけの人が噛み締めていることか!




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