逃がすもんか!
佐田は、自由に生きようとしている。夢を追いかけている。
両腕振って走る佐田を、後ろからシャツを引っ張って止めているのが私。
離せばいなくなる。でも、離さなくてもいずれいなくなる気がした。
それなら、いっそ離さない方がいい。
「逃がすもんか!」
海に向かって思いっきり叫んだ。
「逃がすもんかぁぁぁぁ!」
力の限り叫んだ。
思いっきり声を出したのは、何年ぶりのことだろう。自分の金切り声が急に恥ずかしくなって、辺りを見回すけど、誰もいない。一人。
誰もいないのに、何をそんなに恥ずかしがっているんだろう……。
孤独は、恥ずかしさを感じないくらい恥ずかしいものなんだ。