逃がすもんか!





「学生ですよ。」



佐田は二本目のタバコに火を点けた。



「どこの大学行ってるの?」



「大学じゃないんです。専門学校なんですよ。」



「何系の専門学校?」



彼はそれには答えず、じっと私の顔を見た。



「何?」



「いえ……。昨晩も同じこと訊かれて、同じように答えたんですよ。だから、めんどくさいなって。」



「めんどくさい?」



「めんどくさいでしょう? 同じことを何度も話すなんて。」



そうかもしれない。これは、憶えていない私に非がある。憶えていないことは、時として罪になる。それも陰湿な罪だ。




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