きみが嘘をつくから。
無意識
「俺、ちょっとトイレ。」
教室へと向かう途中、そう言って大輝を含む友達と別れて、用を済ませた後一人で教室へと向かった。
ドアに付いた窓から教室の中が見え、そこに乃々香と大輝の姿が見えた。
一瞬、乃々香がこっちを向いた気がする。
俺が教室に入ったと同時に乃々香が席に向かったのは、俺と話したくないからかな、偶々だよな。
「春馬は一番後ろ。」
先に席を確認していた大輝が教えてくれた。
1番後ろとか寝放題じゃん。
まぁ、どこでも寝るけどな。
席に向かおうと振り返ると、乃々香が俺の斜め前の席にいた。
気付いてないふりをして通り過ぎようとする。
「春馬。」
あと一歩というところで袖を引かれた。
久々に呼ばれた名前は少し擽ったい。
「ん?」
立ち止まって乃々香を見たら、俯いていて顔が見えず、袖を掴む腕が微かに震えている。
俺はその手に無意識に触れていた。
「また同じクラスだね。」
俺を見上げた乃々香は、いつも通りの自然な笑顔だった。
いや、いつも以上に嬉しそうで、自然で、頬が赤くて可愛い。
「だな。席も近いし、よかった。」
それが嬉しくて、俺もいつも以上の笑顔になれた気がする。
また無意識に触れていた手を握った。