眠り王子が完璧に目覚めたら
“楽しと哀し”は裏表
車に乗り込んだ城は、もう一度大きく深呼吸した。
中々怒りが収まらない。
和成が翼を突き飛ばし翼が後ろによろめいたあの衝撃的な光景が、何度も頭の中に甦ってくる。
この鎮まらない感情に、城はどう対処していいのか分からなかった。
コンビニに買い物に行っていた翼が帰ってきた。
手には淹れたてのホットコーヒーを持っている。
「室長、はい…」
翼は城にそのコーヒーを手渡した。
その香ばしい香りが城の怒りを少しだけ鎮める。
「あのタイミングで良かったか…?」
城は力なく翼に聞いた。
城の中では、もっと早くに出て行っていれば翼は突き飛ばされずに済んだかもしれないという思いで悶々としていたから。
「はい、ばっちりです」
翼の無理に繕う明るい笑顔が胸に沁みた。
あんな事言われて傷つかない女の子はいない。
「私、運命的とか無償の愛とか、そういう類のものって全く信じてなかったんですけど、今日の室長を見て何だかそういう何かがあるのかなって感じたんです…」
城はコーヒーを半分程飲んで、翼の話に耳を傾けた。
でも、翼は首をすくめてその先を話す事をためらっている。
「何で…?」
城が優しくそう聞くと、翼はフロントガラスに反射して見える信号の点滅をジッと見ながらやっと口を開いた。
「実はそんなおとぎ話みたいな事をある人に言われたんです…」
城は運転し始めようかと思ったけれど、まずは翼の話を落ち着いて聞く事にした。