眠り王子が完璧に目覚めたら
俺がそんな風にドギマギしているのを横目で見ながら、その子は立ち上がった。
スラッとしたスタイルに、栗色の長い髪。
多分、腰まであるその美しい髪は、やはり月の明かりを浴びて金色に輝いている。
残念ながら俺は、立ち上がる事もできずにその子のオーラに圧倒されていた。
こんなに綺麗な子は見た事ない…
誰かがこのシチュエーションを遠くから見ているとすれば、ここにいるのは女王様と下僕にしか見えないだろう。
が、しかし、その子は立ち上がったまま、またあのカップ酒を手に取った。
そして、バックを掴むと千鳥足で歩き出す。
俺はとりあえず、彼女が散らかした缶ビールの空き缶をゴミ箱に入れて、その千鳥足の彼女の後を追った。
何をやってんだ、俺は…
もう世の中は皆眠りについている頃なのに…
俺と彼女の行く道を、でっかい満月の月明かりが照らしている。
あの新宿の裏通りのおばさんが俺に言った事を信じる気にはなれないが、でも、もう、今の俺には一つの感情が芽生えてきているのは分かる。
愛しみ…
どこの誰だか知らないけれど、気になってしょうがない。
放っといて帰る事だってできるのに、絶対放っておけない何か不思議な力に俺は引っ張られている。
いや、そんな事より、ただただ綺麗だった。
俺のハートを簡単に射抜く程の魅力に満ちあふれていた。
胸が痛い…
キュンキュン痛む…
それはあの子が放った矢が、まだ俺の心臓に刺さっているから…
これが恋というものなのか…?