眠り王子が完璧に目覚めたら



翼の中で、もう何も迷いも戸惑いもない。

和成の家に乗り込んだあの晩を境に、翼の意識は180度変わった。
新宿の裏通りの母に言われた事もかなり影響しているが、それよりも城と結ばれてからの日々は本当に充実していた。

室長は私の全てを愛してくれている。
気の強いところも、見た目とは違い不器用な性格も、全てを包み込んで愛してくれた。

そして、今では私も、和成よりも誰よりも比べ物にならないくらいに室長の虜になっていた。


東京に不慣れな翼のために、城は色々な場所へ翼を連れて行った。
そして、今、翼が取り組んでいるプロジェクト企画のデザインの参考になるように、今まで城が手掛けたアート作品を見て回ることにした。

安達城と言えばプロジェクションマッピングのデザインが主流だが、そういう大掛かりな物とは別に、商業ビルの中にある小さなアトリエのデザインを引き受けたりもしていた。


「……素敵」


翼はそのアトリエに入った途端、一瞬でその空間を気に入った。
飾られている絵画は海や空を連想させるような物なのに、城はあえて夕暮れを思わせるような空間を作っている。
少しだけほの暗くて、でも、何故か居心地がいい。
10畳ほどの小さな空間には、ライトの色合いや壁の装飾、置かれている小さな小物によって絵画を際立たせる不思議な雰囲気が漂っていた。


「室長…
この空間は、綿密に計算された物なんですか?
ライトの当たり具合や、絵画を飾る位置とか」


城は休日になると、いつでも翼の肩を抱くか手を握るかスキンシップは欠かせない。








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