眠り王子が完璧に目覚めたら
そして、今日のアトリエの受付の男の子はバイトの子らしく、城の事は全く知らないようだった。
いつもよりまして、翼の肩を強く引き寄せる。
「翼にだけ教えるんだぞ…
ちゃんと頭に入れておくように。
俺の考えるデザインの生み出し方は、真逆の発想だと思ってる。
特にこういう小さなイベントの場合、まずは入口を見て、その後中を覗くだろ?
例えば、アトリエのお題は海だとする。
入口に海と書いてあるのに、中を覗いたらそこは宇宙だ。
訪れた客の意表を突くっていうのも一つの案で、集客につながりやすい」
翼は城の言葉を録音したい気分だった。
それか、スマホに書き残しておきたい。
「どうなんだ?
プロジェクションマッピングのデザインの進み具合は。
俺が見たいって言うのに、全然見せてくれないもんな…
アドバイスしてやるのに」
翼は首を横に振った。
また不器用で気難しい性格が顔を出す。
今回のデザインは会社の中の数名が案を出す事になっている。
もちろん、最終決定者は城なわけで、そんな言わば選考委員長から手取り足取り教えてもらうわけにはいかない。
「大丈夫です。
今日の今の言葉で十分…」
城は、アトリエを何度も見回す翼を解放した。
きっと、一人で好きなように探索したいはずだから。
「翼、もう一つ言っておくよ。
プロジェクションマッピングは一つの世界を作り出す。
俺は、翼の作ったあの水族館のプロジェクションマッピングは大好きだぞ。
あれは本当に群を抜いて素晴らしかった。
だから、自分の感性に自信を持つ事、いいな?」