眠り王子が完璧に目覚めたら



翼は開け放たれた室長室で、引き出しにしまっていたファイルやUSBを取り出した。

室長が皆の前で宣言してくれたおかげで、翼は何も迷う事なくこの仕事に取り組める。
室長が言ったとおり、そこにはえこひいきやコネなど存在しない公正な実力世界だ。

残念がつくくらいに真面目で融通が利かない翼にとって、その仕組みこそが一番居心地がよかった。

シンプルにいい物が選ばれる。

室長が求めるデザインの真骨頂を皆が理解しているとは限らない。
でも、少しでも近づくために皆必死に努力をしている。
翼はデザインの実績で言えばまだ新米そのものだ。
でも、この与えられたチャンスを確実に自分の物にしたい、自分の持っている感性を信じて皆を唸らせるくらいの作品を作りたいと、翼は心の底からそう思い必死に努力する事を自分自身に誓った。

そして、翼が仕事に没頭していると、室長室をノックする音が聞こえる。
ドアの方を振り向くと、そこには桜井さんと見知らぬ男性が立っていた。


「小牧さん、今、大丈夫…?」


桜井さんの問いかけに、翼は頷いて席を立った。
桜井さんがその男性に目配せをすると、その人は翼を見て軽く一礼をした。


「突然ごめんなさい。

僕は、在宅でプロジェクションマッピングや映像のデザイナーをしている林といいます。
あ、もちろん、この会社とういうか空間デザイン室に籍を置いてる人間なんだけど。

さっき、室長からの話を聞いて、僕らみたいな駆け出しの人間には最高のチャンスを与えてもらって、まだ心臓がドキドキしてるんです」












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