眠り王子が完璧に目覚めたら



城は少し体を離して翼の顔を覗きこんだ。


「落ち込んでないのか…?」


翼はまた城に抱きつき「大丈夫」と答えた。


「さっき来たメンバーを見て、敵うはずないって実感した。
皆、一流の人ばかりなんだもの」


「でも、採用されたのは新人の林君だ」


翼は城の脇腹をつまんだ。


「それは言わないで。
それはちょっと悔しいんだから」


城はもう一度翼を強く抱きしめた。


「はい、もう3分…
室長、私にこんなチャンスを与えてくれて、本当にありがとうございました」


翼はそう言うと、城から離れブラインドを開けに行った。


城の方こそ泣きそうだった。
というか、何で俺が泣きそうなんだ…?
翼はハツラツと前を向いているのに。

城は小さくため息をつく。
自分の新しい発見に、毎回凹んでしまう。
俺はヘタレで意気地なしで、翼が関わると翼以上に物事を考え過ぎる。
逆に、翼は俺より男前で、俺が関わっても冷静に物事を判断できる。

城は一気に疲れが出た気がして、自分のデスクに倒れるように座り込んだ。
人を愛するって、何て疲れるんだろう…
こんな事なら、感情がなかったロボットのままの方がよかったのかもしれない。
でも、目の前を横切る翼を見て、城は無意識にヒュ~と口笛を吹いた。

いや、こんなに最高な翼に会わずに暮らすなんて、そんなクソつまらない人生なんて考えられない。
俺は、翼の下僕になり下がろうとも、それでも翼について行きたい。

城は口笛に気付いて振り向いた翼に、最高のウィンクを送った。






< 139 / 160 >

この作品をシェア

pagetop