眠り王子が完璧に目覚めたら



午後になり、不採用の面々の講評を行う前に、城はまずは林君を室長室に呼んだ。
採用通知をもらった林君は、最高にご機嫌な調子で室長室に入って来る。
そして、入ってすぐに翼を見つけると、少しだけ茶化したような表情でこう言った。


「小牧さん、残念だったね…
今度さ、小牧さんの作品に何が足りなかったか僕が一緒に探してあげるからさ、気を落とさないで。
あの水族館の作品は良かったのにね、ま、次回だね、頑張れ!」


さすがの翼も目が釣り上がっている。
でも、その前に、城の方が究極に冷めた恐ろしい顔をして、林君を睨んでいた。


「おい、お前。
調子に乗ってんじゃないぞ。
お前の作品だって今回は採用だったかもしれないけど、そんな周りに気を遣えない人間は、もう次はないからな。
言葉に気をつけろ!」


周りじゃないぞ、翼に気を遣えない人間だ…
城はそう言いかけて、すぐにその言葉は飲み込んだ。
これを言ったら、林君に向かっている翼の怒りは方向転換して俺に向かってくるだろう。

林君はしゅんとなって、小さな声で翼にごめんと言っている。
そんな林君を見て、翼はいいよと笑顔で頷いた。
あの人の事は気にしないで、みたいな、俺を悪者にしたような笑みを浮かべて。


それでいいんだ。
翼が良ければそれでいい。

もう俺は翼に関しては、神の域に達しているのかもしれない…






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