眠り王子が完璧に目覚めたら



翼にとって、11月の選考会から12月にかけてはあっという間に時間が過ぎていった。

それは、翼がビッグプロジェクトを物にした林君のチームに抜擢されたためだ。
林君主導のチームは、期限までにそのプロジェクションマッピングを完全な物に作り上げなければならない。
翼は以前の水族館の作品が高評価だった事を受け、林君のサポートメンバーとしてそのプロジェクトの一員となる事ができた。
それまでは室長室に入り浸りだった翼も、今では小会議室に缶詰め状態になっていた。

もちろんそのプロジェクトの総指揮を執るのは城だ。
でも、城は来年の三月にこの会社から独立する事が決まった事もあり、とにかく目が回るほど忙しかった。

お互い忙しいせいで、翼の家で過ごす夜の時間が唯一の大切なひと時だった。
城は自分の家には全く帰らず、翼の家で完全な同棲生活を送っている。

最近は、その数時間が城にとっての生きる活力になっていた。
つき合い出して数か月が経とうとしているが、城の翼への思いは落ち着くどころか更に膨らむ一方だ。

城は、今では、二人分のお弁当まで朝早くから作っている。
忙しい翼の体が心配で、毎日緑黄色野菜がたっぷり入った栄養たっぷりの手作り弁当を翼に持たせている。


「食べる時には、必ず俺の顔を思い出すこと。
城、ありがとう、愛してるって、必ず心の中でつぶやくこと」


翼はハイハイと言いながら、いつも笑顔で聞き流す。
そういう俺達の関係は、居心地が良すぎるほどに当たり前になっていた。












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