眠り王子が完璧に目覚めたら
「翼、クリスマスイブの日は、どこがいい?
お洒落なお店を予約してもいいし、この家で俺がご馳走を作ってもいいし」
師走も終盤に入る頃、城は翼にそう聞いてみた。
イブの夜まで残業なんて許さない。
だから、早めに予定を伝えておく必要があった。
ベッドでまどろんでいる翼は、城の胸にもぐり込んでくる。
今夜は、この冬一番の冷たさだった。
「お店じゃない方がいいな。
それに、できれば……」
「できれば?」
城はキャミソール一枚の翼を温めるように抱きしめる。
「城の家に行ってみたい。
城の家でイブは過ごさない?」
城は更に強く翼を抱きしめた。
「お安い御用だよ。
じゃ、俺の38階の部屋で、夜景を見ながら乾杯しよう」
城は翼に十回目のキスをした。
最近の翼は、俺のキスの回数を数える事で自分なりに楽しんでいた。
毎晩、記録を更新しているそうだ。
俺にとっては、大して驚く事でもない。
キスをしてもしたりない、中毒性になっているのは確かだから。
そして、イブの夜に、俺は翼に言わなきゃならない事がある。
実は、まだ、翼は俺の独立の話は何も知らない。
翼も3月でこの会社を辞める。
それは、俺の新しい会社に来てもらうためであり、その先にはもちろん結婚もある。
でも、今、いきいきと楽しそうに仕事に取り組んでいる翼を見ていると、いささか不安になった。
俺の決定事項を、翼は素直に受け入れてくれるだろうか……