眠り王子が完璧に目覚めたら



「小牧さん、こちらへどうぞ」


私が空間デザイン室の入口に立っていると、私の教育担当係になっているらしき女性がそう声をかけてくれた。
空間デザイン室は、このビルのワンフロアを独占している。
間仕切りの空間に、無造作に好きなようにそれそれのデスクが置いてあった。
綺麗に整理整頓している人もいれば、机の上が書類の山になっている人もいる。

でも、乱雑に並べられたデスクにも、やはり空間を有効に利用している風にも見えてくる。
いや、ちゃんと考えて並んでいる。
そこに気づかなければ、この空間デザイン室の一員にはきっとなれないのかも…


「初めまして、小牧さん。
私は、しばらくだけど、小牧さんの教育担当になった桜井と言います。
年は小牧さんと同じ25歳です。
だから、上下関係関係なしに仲良くしましょうね」



「…はい、よろしくお願いします」


桜井さんの隣に私のデスクが準備されている。

何だかちょっと嬉しい。


「小牧さんって、びっくりするくらいの美人だから驚いちゃった。
企画広報部のモデルさんに登録しちゃえばいいのに」


私はガックリ肩を落とした。


「有り難い事によくそう言われるんですけど、でも、その印象も一日で変わると思います」


「え? 何で?」


私は肩をすくめて桜井さんを見た。


「喋ったら超うるさいし、感情が表に出過ぎちゃうんです」


「あ、分かった。
じゃ、黙ってれば美人さんなのにタイプなんだ?」


私が頷くと、桜井さんはクスッと笑った。





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