眠り王子が完璧に目覚めたら
桜井さんが出て行くと、室長室は一瞬で静まり返った。
エアコンを強にしたのかな?というくらい、冷たい空気が私を包み込む。
でも、相変わらず、何も喋らず私を凝視している室長とは目を合わす事ができない。
翼、落ち着いて…
いつもの翼らしくないじゃない…
私は小さく深呼吸をすると、勇気を振り絞って室長と目を合わせた。
「あ、あの、私、秘書の仕事とかやった事がなくて…
あ、でも、言われた事はちゃんとやります。
あの、で、何をすればいいでしょうか…?」
その時、まともに見た室長の雰囲気に少しびっくりした。
さっきの睨みはどこへ行ったのか、清潔感のある爽やかな高原の丘に立っていそうな正統派のイケメン男子に変身していた。
私を凝視していることに変わりはないが、今の室長は、溺愛する愛猫を見るような目で私を見ている。
でも、私の質問が聞こえなかったのか、何も答えてくれない。
何もする事がない私は、整然と片づけられた室長室を目だけでぐるっと見て回った。
正面の壁は、向こうの空間デザイン室が見えるように半分はガラスで仕切られている。
今はブラインドが下りているが、普段は開けっ放しになっているのだろう。
それよりも一番に目を引いたのが、室長のデスクの上に置いている超合金ロボのフィギュアだった。
私がそのフィギュアに目を奪われていると、急に室長は立ち上がり、私の方へ近づいてきた。