眠り王子が完璧に目覚めたら
「室長、きっと勘違いしていると思います…
誰か他の人と間違えているんじゃないでしょうか?」
想定内の翼の言葉に、城は笑いそうになった。
あんな酔っ払ってて、逆に覚えていたらそっちの方が驚きだ。
「俺に限って人違いは絶対にないよ。
俺は君に出会った…
君が覚えてなくても全然構わない。
俺が全部覚えてるから…」
城は狐につままれたような顔をしている翼を見て、また笑ってしまった。
「すみません…
私は全く覚えてなくて…
もし、室長さえよければ、その時の様子を私に教えてもらえませんか…?」
翼はもしやと思いながら、いや違うと何度も頭を振った。
20歳になってお酒をたしなむようになってから、記憶を失くした事は多々ある。
まさか…?
酔っ払っている時…?
でも、そういう事は一回や二回の話ではない。
和成にフラれてからは、そういう記憶を失くす程飲んでしまう機会が倍に増えた。
夜中に警察に補導された事が何度もある。
もしかして、私は、やらかしてしまったのかもしれない…
「あ、え、その、やっぱりいいです…
教えてくれなくて、いいです…
室長が私に好意を持ってくれている事には、本当に感謝します。
その期待を裏切らないように、しっかり仕事を頑張りますので、どうぞよろしくお願いします…」