眠り王子が完璧に目覚めたら



翼は、室長の手作りの最高に美味しい料理を堪能しながら、今置かれている不思議な空間に戸惑っていた。
室長は全てにおいて本当に手際が良くて、部屋の片付けも7割方終わらせてくれた。

室長にとって都合が良かった事が、私が全く料理をしないしできないという事だった。
だから、キッチン用品も最小限の物しか揃っていない。
包丁1本、小さなまな板、万能フライパン、万能なべ、その四点セットだ。
とりあえず今夜のメニューはこの四点セットで間に合ったが、残念な事にお皿が足りなかった。
品数が多い室長のメニューをこなす程のバラエティ豊かなお皿はなく、私がコンビニに紙皿を買いに行く始末だった。


「よし、明日はキッチン用具を買いに行こう。
あまりにも何もなさ過ぎるからさ」


室長は嬉しそうだ。


「でも、そんなに揃えても私は料理はできないので、無駄になると思うんですけど…」


せっかくこんなに美味しい料理を食べさせてもらったからあまり室長を悲しませたくはないが、でも、私と室長は上司と部下の関係で、こんな付き合いは絶対に良くない。
翼の生真面目で何となくが苦手な負の性格が、所々で顔を出した。


「無駄にはならないよ。
だって、俺が使うんだから」


翼は小さくため息をつく。
そして、手に持っていた箸をテーブルに置いて室長を見た。


「室長、こんなのはよくないと思います…
私と室長は上司と部下の関係で、彼氏と彼女じゃないんです。
だから…

こんなに良くしていただいて本当に申し訳ないんですけど、室長は、今夜は帰らないとダメです。
泊まるなんて、とんでもないです…」










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