眠り王子が完璧に目覚めたら



夕食を終えた後、城は一日家に居た翼を連れて散歩に出た。
朝方に買い物に行った時、この街の雰囲気を一目で気に入っていた。

城は都心のど真ん中のマンションに住んでいるため、こういう穏やかでのんびりとした郊外の風景に飢えているのかもしれない。

夜の公園まで二人で歩いた。
翼はノースリーブのセットアップに薄手のピンク色のパーカーをはおっている。
夜風を冷たく感じる事にさえ敏感になってしまう城は、翼の肩を自分の方へ守るように引き寄せる。


「室長、今日は本当に泊まるんですか…?」


翼は何度もしつこくこの質問を繰り返す。


「ああ、泊まるよ」


「そ、そうですか…」


城はうんざりした顔で翼を見る。


「何で?」


翼は困ったように下を向いている。


「あ~、やっぱり、友達の言う事を聞いておけばよかった…」


翼はひとり言のように喋り出した。


「だって、こんなに早くに、男の人を家に泊めるなんて思ってもなかったから、後々ゆっくりと処分しようと思ってたんです」


「何が?」


翼は城の顔を見ると、また下を向いた。


「あのベッド…
和成と一緒に使ってたんです…
あ、私と和成、二年くらい同棲していて、その時に買った物で…
デザインが可愛いから、引っ越しの時に捨てられなくて…」


きっと、翼は良かれと思って喋っているのだろう。
でも、俺は、過去の男に異常な程に嫉妬していた。

一緒に寝ていたベッド?
同棲??

そんな事最初に知っていたのなら、組み立てる前にゴミ置き場に出したのに…
俺は何のために寝ないで必死に組み立てたんだ?





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