眠り王子が完璧に目覚めたら
「室長、私は、まだ、室長に抱かれたくないんです…」
目の前にある翼の顔は、ワインのせいで少し赤くなっている。
「何で…?」
翼はまた小さくため息をつく。
「室長はまだ気づいてないと思うんですけど、私の性格って変な所で生真面目というか、何となく…とか適当に…とかそういう類のものが苦手なんです。
室長とお付き合いするって返事したのも、付き合ってるのか?付き合ってないのか?みたいな宙ぶらりんな関係が嫌だったからで、あ、でも、もちろん室長の事もいい人だなって思ってるのは確かです…
だから、最後の関係は、やっぱり私の心の整理がつくまで待ってほしいんです」
は? また和成か…?
「和成と話をして心の中に鬱積してる悔しさとかやり切れなさとか全部吐き出さないと、室長とそんないい雰囲気にはなれない気がするんです」
いや、勢いで俺はいいと思うけど…
そんな意地悪な事を考えている俺の顔を、翼はじっと見ている。
捨てられた子猫のような上目遣いの可愛い目で見られたら、俺は何も言えない。
翼の吐く息が甘くて、俺は何だか魔法をかけられたような気分だった。
「じゃ、和成と話をしたら、俺に抱かれるんだな…?」
翼は恥ずかしそうにコクリと頷く。
「分かった、じゃ、大急ぎであいつの住所を調べるから」
「そんな急がなくていいですよ。
だって、室長が忙しいのは、私はよく知ってるし、いつでもいいです。
のんびり待ちます」
「いや、俺がもたない…
それに、俺の中では、こっちの案件の方が最重要事項だから」