眠り王子が完璧に目覚めたら



土曜日を迎えるまでの城の日常は最悪だった。

翼に関しては、全てが優先的でどんな失敗をやらかしても城の怒りを買う事はない。
しかし、他の社員に関しては、怒りという感情とはまた違う“つき離す”“目を見ない”“存在を認めない”という今までの室長に更に輪をかけた強力な仕打ちが待っていた。

とにかく機嫌が悪いのはどうしようもない。
機嫌が悪い事自体、今までの俺はそこまで感じる事はなかったのに、今の俺はこの悶々とした頭の中を一瞬でさえクリアにする事ができなかった。

そして、こんな状態の時に限って、あり得ない失敗をする奴がいる。
今までの俺ならば、一言“気をつけろ”で済んでいたのに、今の俺は心臓を一突きしそうな睨みと嫌味を投げつけて、その相手が再起不能になる程のダメージを与えた。

そして、もっと最悪なのが、その一連の出来事を翼が見ているという事だ。

俺が室長室に翼を置いたのだからしょうがない事なのだが、たまに翼と目が合うと信じられないみたいな蔑んだ表情で俺を見た。
その翼の尖った視線は、今度は逆に俺の心を一突きする。


室長室に立て続けに訪れた来客がひと段落ついた時、翼がコーヒーを淹れて城の机の前に来た。


「室長、コーヒーブレイクして、頭の中を休めて下さい」


俺は泣きそうになった。
悲しいかな、今の俺の全ては翼を中心に回っている。

翼は誰も来ない事を確認して、城の隣に腰かけた。


「室長、笑って」



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