たった二文字が言えなくて
「し……」



中庭に座る彼女をみつけて、声をかけようとした。
でも、やっばり名前なんて呼べなくて。



「……高藤くん?」



俺の小さな声に気づいたみたいで静菜ちゃんが振り返る。



「あ……多分ここだろうって莉音が」


「莉音が……」


「……うん」



あぁ、もう。
俺、どんだけヘタレなんだよ。
ほんとにうまく話せない。



「昨日から名前、呼ばなくなったよね」


「え……?」


「一昨日は呼んでたのに」



たしかに一昨日はまだ何とも思ってなくて。
〝静菜ちゃん〟って呼べていた。
でも、いいなって思ったあの瞬間から呼ぼうとするだけで顔が熱くなって無理なんだ。



「大した意味はないよ……」



大した意味なんてあるのに。
やっぱり俺は肝心な今年が言えない。



「莉音の名前は呼ぶんだね」



静菜ちゃんはピクリとも表情が変わらない。
でも、言葉を聞く限りもしかしたら俺のこと……なんて自惚れた考えが浮かんでくる。

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