糖度高めな秘密の密会はいかが?
"二人は特別"という言葉に喜び、"残り僅か"という言葉に困惑する。

「残り僅かになるって、どういう事ですか?」

言葉の意味を聞き返す。

「それはね…」と佐藤さんが切り出した時、日下部さんが「佐藤さん、今が良いタイミングですから、帰りを待たずに皆に伝えたらどうですか?」とアドバイスをした。

佐藤さんは静かに頷くと、日下部さんが口元だけ微笑んだ様に見えた。

「皆、ちょっとだけ耳を傾けて下さい。佐藤さんからお話があります」

日下部さんが皆に話かけると電話をしている人以外は作業の手を止めて、佐藤さんの方向を見る。

一声で一斉に見る辺り、絶対的な統率力なのだ。

「実は…結婚する事になりまして、もうすぐ妊娠4ヶ月になります。挙式は安定期まで待って6月に予定しています。仕事は8月までになりますので、短い間になりますがよろしくお願いします」

「わぁ、おめでとうございます」
「お祝いしましょう!」

歓声が響く職場に私は驚きを隠せずにいて、気の利いた言葉が出てこない。

佐藤さんが居なくなってしまう寂しい気持ちと祝福してあげたい気持ちも混在している。

「ゆかりちゃん、私は8月で辞めるのよ。彼の東北の実家に一緒に帰ることになって、出産もそっちでするの。しばらくは専業主婦ね」

「佐藤さんが居なくなるなんて嫌です!どうしても帰らなきゃ行けないんですか?」

祝福したいのに、それよりも先に引き止める言葉ばかりが浮かぶ。

「彼の実家が旅館を営んでいて、御両親も私達が継いでくれたらと考えてくれていたから、ちょうど良い機会なの」
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