糖度高めな秘密の密会はいかが?
有澄は不敵な笑みを浮かべて物申すと、多岐川さんは悔しそうな顔をして私を睨む。

「内緒だけど…」と前説して、多岐川さんの耳元で、
「ゆかりは人に頼り過ぎず、自分の意思を尊重出来る女の子。それに、いろはデザイナーだから将来的に社長を譲るにも申し分ない、婚約者なんだよ」
と私には聞こえないように呟いたつもりか、本当は少し聞こえるように呟いたのかは定かではないが微かに聞こえた。

私に伝えたいから、わざと聞こえる様に呟く・・・有澄なら有り得る。

"婚約者"って誰かに言い切るあたり、私は愛されてると自惚れても良いんだなって改めて思う。

多岐川さんは何も言い返せず、唇を噛んで拳を強く握っている。

立ち尽くしている私に向かって歩き出す有澄が、多岐川さんに背を向けながら、

「処分を検討しなきゃいけないけど、ゆかりがそれを望まないだろうから今回は見逃すよ。

ただ、これ以上悪さするなら、副社長の命令により即刻退職して貰うからそのつもりで。
その時はそれなりの処罰を受ける覚悟でいて」

と言って、手をひらひら~と振りバイバイする。

「日下部さん、蔭で笑ってないで出て来たら?」

企画開発部の入口まで来ると、日下部さんが蔭で見ていた事を有澄が察して呆れたように声をかける。

「秋葉が飛び出して行ったから何事かと思って追いかけたけど、お前が来たからどう対処するのか気になって見ていた」

日下部さん笑ってるし、こっちは必死だったのに!

「…お前のシナリオ通りだったな、有澄」

有澄の肩を叩き、言いながら通り過ぎようとした日下部さん。

「あ、あ、あり、とって呼んだ!今、有澄って呼んだ!」

私は、日下部さんが有澄って呼んだ衝撃を隠せずに思わず歓声を上げた。

「今、気にするとこ…そこ?」
「……呼ばなきゃ良かった、うるさい、秋葉」
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