だから、君が嫌いだ【短編】
だから、君が嫌いだ
『ファーストキスは、涙の味がした』


なんて、よくあるフレーズを思い出して、ふんっと鼻から息をだした。


私のファーストキスは激辛の麻婆豆腐味だったよこんちきしょう。


今さら頬に涙が伝うけどもう遅い。


あいつの食べていた激辛は、涙なんかじゃ薄れないくらい、冗談抜きで激辛だった。


結局、そういう事なんだろ?


ファーストキスも、あんたの気持ちも。


唇がヒリヒリして、胸のあたりがジンジンして、痛い、痛い、痛くて涙が止まらない。


唇を重ね、そっと離した時も、相変わらずあいつの感情は読めなくて、その瞳に映る私とは正反対の表情だった。


『そんなに、嫌いかよ』


5つ上のなかなかパリピな兄の影響をもろに受けた私の吐いた言葉にも、なにも言い返さなかった。


「なんなんだよあいつ!ロボットかよ!」


電話の一本もかかってこない携帯を地面に投げつけようと振りかぶって、怒ると般若のようになる母親を思い出し、ため息をつく。


「なんなんだよ、ほんと……」


俯いたまま、鼻頭に伝ってきた涙の行方をぼんやり眺める。


それは、私から離れた瞬間夜の闇に飲み込まれて見えなくなってしまった。


ただ、確かめたかっただけなのに。


君の心を、知りたかっただけなのに。
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