だから、君が嫌いだ【短編】
遡る事、約1時間前。


私は、3ヶ月前から付き合っている彼氏である男、湊時雨の家にいた。


「なー時雨」


「んー」


「あのさ、好きだよ」


「んー」


「……明日隕石降って地球終わるらしいよ」


「んー」


「聞いてねーなお前」


「んー」


哲学的思考のなんちゃらかんちゃら、なんて面白みのない難しい本を読みながらカラ返事をする時雨の横顔は、悔しいほどに整っている。


その瞳がうっすら青みがかっているのは、ロシア人であるおばあちゃんの遺伝だ、と言っていた。


どことなく気怠げな雰囲気は、常に眠そうだからなのか、それともそういうフェロモン的ななにかを放出しているからなのか。


そのアンニュイで独特な空気に飲み込まれそうになって、「いやいや!」と大声をあげてしまった。


「なに?」


無表情かつ感情のない「なに?」に思わず背筋を伸ばす。


「時雨さん、表情筋ちゃんと動かしてください」


「は?」


「表情筋の衰退が著しくはやくなって将来笑えなくなる……」


「用がないなら黙ってて」


バカみたいな(いやまあ実際数2欠点のバカだけれども)発言に被せられた言葉がちゃんと文章である事に感動しかけて、我にかえる。
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