だから、君が嫌いだ【短編】
「なあ、時雨。好き?」


震えないように、いつも通りに、平然を装って問いかける。


「麻婆豆腐は、好き」


麻婆豆腐は。


なら、私は?なんて聞いたって、たぶん、いや、絶対答えなんてくれないんだろう。


「ふーん、そっか」


なら、もういい。


麻婆豆腐を含んだままの時雨に、ぶつかるくらいの勢いでキスをした。


そっと唇を離す。


ひりひり、ジンジン、痛すぎて、君の瞳に映った私の顔がゆがむ。


「そんなに、嫌いかよ」


吐き捨てるように言って、私は部屋を出た。


そして、冒頭に戻るのだ。


「なにやってんだ、私」


最初から、問いかけの答えはわかりきっていた。


当然「嫌い」だ。


だって、一度も。


好きだなんて、一度たりとも言われたことがないのに。


すっかり暗くなってしまった住宅街の道路に、泣いてる女子高生(しかも唇は激辛麻婆豆腐のせいで真っ赤)。


まったく、映画にもなりやしないシチュエーションだ。


帰ろう。


待ってたって、惨めなだけだ。
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