だから、君が嫌いだ【短編】
一歩踏み出した時、後ろでベチャッと音がした。


「嫌いだよ」


時雨の声が聞こえる。


幻聴?私、相当重症だなおい。


「聞いてんのか!嫌いだよ!」


しかも、幻聴時雨なんか怒ってるし、普通に傷つくこと言われてるし。


なのに、なんで私、また泣いてんだろう。


なんで、ちょっとだけ嬉しいとか思っちゃってるんだろう。


振り向くと、右手に皿、左手にスプーンを持ったままの時雨がいた。


地面に、赤黒い豆腐と香味料の塊が落ちている。


「あの、まーぼー落ちてるけど……」


「んなのどうでもいいから聞け!」


キャラ変わってません?


と言いたくなるほど、時雨は怒っている。


珍しい、というか初めて見た。


「時雨の表情筋が動いてる……‼︎」


「そういうところが、嫌いなんだよ!」


開いた口が塞がらない、と言おうとしていたけれど、その言葉にキュッと口を結んだ。
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