紳士的?その言葉、似合いません!



言葉を失っているとニッコリとそれはもうイイ笑顔を返された。はっはっは、ふざけんな。


お酒でどこかに行っていた感情がふつふつとまた湧き上がってくる。それは元彼に対してでもあるし目の前にいる人に対しての感情でもある。


この人のこと紳士的とか言い始めた人誰だよと今、切実に聞きたい。ついで問いただしたい。紳士的って意味わかってます?礼儀正しいって意味もあるんですよ?


間違っても傷心中の婦女子に向かってニッコリ笑顔で振られてよかったですねなんて言う人間を紳士的とは言わない。


でもまさかそんなことを上司にも当たりうる人に言えるわけがないので表面上は何気ない風を装いながらこちらもニッコリとイイ笑顔を向けてやった。



「ちなみになぜ別れてよかったのか聞いてもよろしいかしら?」



本人目の前にして言えるもんなら言ってみろという気持ちがなかったとは言わない。むしろがっつりありましたしね!


わたしから発せられる不穏な空気もなんのその、都築さんはいつもと欠片も変わらない柔らかな笑みを浮かべながらグラスを置いてわたしを見た。


印象的な青みがかった薄い茶色の左目がわたしを映す。その瞳に浮かぶ光がよく見るといつもと違う色を乗せているように見えた。




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