紳士的?その言葉、似合いません!
昨日のわたしに言いたい。いくら疲れて頭が働いていなかったとは言え大切なことは後回しにしてはいけないのだと。
この人相手に普通の人だったらなんてことを考えても無意味なのだと。最初から普通の人ならそもそもあんな風に拉致なんてしない。なぜ忘れていたんだわたし。
「おはようございます凛華さん、今日もとても美しいですね。あぁ、昨夜のあなたも劣らず美しかったですが」
「………オハヨウゴザイマス」
ひくりと頰が引き攣ったもののすぐに社会に出て身につけた完璧な笑みを浮かべる。これが大人の対応というものである。社会に出れば嫌というほど学ぶので良い子のみんなはまだ覚えなくてよろしいですよ。
ただそんなわたしの一瞬の表情を捉えて目の前の人は面白そうに目を細めてそれはもう胡散臭いほどに完璧で美麗な笑みを浮かべた。
ざわざわと周りが困惑したような、それでいてどこか興奮したような声で騒がしくなる。それもそうだろう。わたしだって第三者の立場だったらそちら側にいたはずだ。
今の今まで紳士的な態度で女なんて選り取りみどりだろうがその実全くと言っていいほどに女の気配を感じさせなかった『あの』都築さんが。
どこぞのファンタジー小説に出てくる王子もしくは騎士さながらに自ら女性の手を取りキスをして朝から目の保養を通り越した毒とも言える色気をダダ漏れにしながらニッコリと笑顔を見せたのだから。