紳士的?その言葉、似合いません!
気をつけて帰りなさいよ、という先輩の言葉に笑顔を保ちつつ鞄から防犯ブザーを取り出して見せ別れた。なお、わたしが防犯ブザーを持っているのは誰かさんからの強制であってわたしの意思ではない。
持たせた犯人など言うまでもない。現に先輩も苦笑いだった。ふっ、あの笑顔の威圧を受けて受け取らない人がいるなら是非会ってみたい。無条件で尊敬するわ。
コツコツとヒールの音が喧騒の中で音を立てる。お酒が飲めないのは辛いけどお腹の子と比べればどうってことないし気分転換にもなるからまた暇な時は先輩に付き合ってもらおう。
そして新事実が判明したけどどうやら先輩、すでに子持ちだそうだ。聞いたときはあんぐりと口を開けて凝視してしまった。人は見かけによらないね、うん。
でも近くに子持ちの母親がいるっていうのは心強い。先輩ならそう遠慮せずに相談とかできるし。
自然込み上げる笑いにお腹を撫でて軽い足取りで家へと向かう。まずは何をしよう。というか病院行くのが先よね。それでもって都築さんにバレないようにしないと。
もう少しで自分のマンションというところで何かが視界をかすめた気がして振り返って稀に見るほどに後悔した。なぜ振り返ったわたし。
いやまだ相手は気づいてないはず、と早々に退散を試みるが一歩先にバチっと目が合ってしまった。すぐに視線を外すけど近づいてくる気配が…なぜ来る。
「久しぶり」
「…なんなのよ」
そこにいたのは半年前までわたしの彼氏と呼ばれた人だった。