紳士的?その言葉、似合いません!
まだ何か考えている鷹斗は無視してコーヒーを入れるために外にでる。ついでに鷹斗の分も入れておこう。
給湯室に向かうと何かを話す声がしてタイミングが悪かったかと進めていた足を止める。ここで入ると何かしら絡まれそうなんですよねぇ、密室ですし。
今の気分で女性に絡まれたらいつものように躱すのは面倒くさい。ここは大人しく戻るか、と足を反転させたところで「わかった、仕方ないわね」という声が。
そういえばさっきから1人分の声しか聞こえないような…電話ですか。そして今気づいたがこの声は多分長谷川さんだろう。ということは電話の相手は彼氏だったりするのだろうか。
なんとなく気になって給湯室の前で足を止めてしまう。盗み聞きとは紳士にあるまじきことだと理解しながらも好奇心には勝てなかった。まぁバレなければいいですから。
「わかった、気にしないで。じゃあ、」
しばらくなんの声も聞こえなくなり、電話が終わったのかと少し開いている扉から中を覗いてみて目を見張った。
今まで接してみて私の長谷川さんの印象は凛としたいい意味でしっかりした大人の女性だった。こちらに媚びを売ることなく仕事をしっかりとこなす、程よい距離感を持った女性。
だが今見える彼女はスマホを握りしめたまま泣きそうな顔で唇を噛み締めていた。それは何かを耐えているようにも、我慢しているようにも見えて、不思議と堪らない気持ちになった。