紳士的?その言葉、似合いません!
彼女をこういう顔にしているのはさっきの電話の相手なのだろうか。彼女は今、自分がどんな顔をしているのか自覚しているのだろうか。
不意に、手を伸ばしそうな自分がいることに気づく。その華奢な体を抱きしめたいと、そう思った。
ポツリ、と彼女が何か言った気がして耳をすます。完全に盗み聞きだが今さら辞めるという選択肢は頭の中にはなかった。
「何回目のドタキャンだろ……きっと、今日が記念日ってことも忘れてるんだろうね」
ぎゅ、と目を閉じる姿が酷く傷ついているように見えて私まで胸が締め付けられるような気がした。
やはり相手は彼女の彼氏なのだろう。断片的な会話からして付き合った日か何かの記念日で会う約束をしていたことが中止になったとかだろうか。
よくある話だ。珍しくもなんともない、どこにでも転がっているようなありふれたもの。それなのに、声なき声で「寂しい、」と呟いた彼女の姿に胸が痛かった。
これは同情だろうか、いや、こんなことで同情するほど私は情に厚い人間ではないことを自覚している。自分や鷹斗に有害だと見なしたときは簡単に人を切り捨ててきた。
それなのに、今感じるものはなんなのだろう。傷ついているであろう彼女に手を伸ばして、腕の中に囲って、泣かない彼女の涙を受け止めたい。