紳士的?その言葉、似合いません!
曖昧な感情のままに給湯室の中に足を踏み入れる。さも今来たとばかりに振る舞えば長谷川さんはさっきの表情を一瞬で隠してしまった。
こういう自分の感情を押し込めて社会人として繕うことができるから安心して接することができると思っていたが、それが今ではもどかしい。
「おや、長谷川さんも飲み物を?」
「えぇ、まぁ」
「コーヒーで宜しかったらついでに入れますが、どうします?」
「…じゃあお言葉に甘えて」
体はコーヒーを入れることに集中しながらも意識はずっと彼女の方を向いていた。カップを用意する後ろ姿を見つめる。
華奢な体つきや滑らかそうな肌、シンプルに1つにまとめた髪から覗く項など、今まで気にならなかったことが気になっていく。
これは、なんというか……今までの何よりも危険ですねぇ。さて、どうしましょうか。
コーヒーを持って給湯室を出た彼女に続いて私も2つカップを持ったまま社長室へと戻る。
「遅かったな」
「いろいろありまして」
テーブルの上にカップを置くと「ふーん、」と特に関心もなさそうな返事が返ってきた。まぁ特に何か期待したわけではないが。
自分も手の中のカップに口をつけながらもさっきのことを考える。私は他人の感情はもとより自分の感情にも聡い方だと思う。つまりはこの感情にも気づいているわけで。