向日葵にさよなら。

 鈴木さんは母さんと同年代で、うちに来るたびに世間話をしていたからよく覚えている。

 うちに来なくなる理由は、お見舞い相手が退院したからというだけではない。お見舞い相手がいなくなってしまうという、悲しい理由があるということに気がついた。


『毎日不安なんだ。もしお母さんが死んじゃったら、って思うと……』

……ふと、倉本がか細い声で話していたことを思い出す。

 彼女がうちに花を買いに来ないのは、てっきり彼女のお母さんが元気になったからだと思っていた。
 でも、もしそうじゃなかったとしたら、倉本は部屋で一人泣いているのだろうか。

 いや、そんな縁起でもないことを考えてはいけない。過労と夏風邪だって言っていたし、万が一のこともないだろう。

 でも、もし実は本当は重い病気で、それを娘に話していなかったということもあるかもしれない。あるいは、倉本は全てを知っていて、僕に話さなかっただけかもしれない。

 
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