・キミ以外欲しくない

大切な会議中なのに、社員達の意見はぶつかり合い、収拾がつかなくなっているというのに。
何故か副社長は口の端を少し上げ、含み笑いした状態で話している。
しかも、ちょっと嬉しそうに見えているのは気のせいだろうか。


「例えば、婚約中のカップルである女性が、西本のように結婚生活に夢を持っていたら? この部屋に住みたいと希望したら? 結婚を控えている婚約者の男性がノーと答えるか? どちらかと言えば、男らしいと思われたくてイエスと言うかもしれない。モデルルームを見て、新婚生活をイメージした二人が盛り上がり、そのまま契約する可能性の方が高いだろ」

「あぁ、なるほど」
「それもありますね」
「そっか、賃貸もあるんだから。嫌なら出て行くことも可能だし……」


副社長が話し出した途端、雲行きが怪しかった会議が再びひとつに纏まり始めた。
詰め寄られ言い返す事さえ出来なかった私は、単純に「凄いな」と思い。
同時に、潰されかけていた提案を救ってくれたことに気がついた。


「それと、会議の舵を取るのは西本だ」と副社長の鶴の一声で、経験のない私が会議の指揮を執ることになってしまい。
副社長から既に助けてもらっている手前、逃げることも出来なくなった私は、恐る恐るホワイトボード前に立ち議長を務めることになってしまった。
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