・キミ以外欲しくない
「ですよねぇ……あはっ」
「笑い事じゃない。俺の顔を潰さないようにしっかりやれ」
「はい。……副社長の顔、って?」
言われたことが理解できず、キョトンとした顔で副社長を見上げた私に「なんでもない、早く会議に戻れ」と副社長の両手が肩の乗せられ、クルッと身体を回れ右させられてしまった。
軽く押し出され、反射的に身体が前のめりになり片足が前に出る。
振り返ると、副社長は「頑張れよ」とひとこと告げ、背中を向け歩き出していた。
スーツ姿の副社長の背中は、どんどん小さくなり見えなくなる。
見送る私は、比例するように緊張感を取り戻してゆく。
なんだろう。
副社長が居ないと思った途端、不安になってる。
会議室に戻るのが怖い。
ちゃんと会議の続きが出来るだろうか。
ドキドキする気持ちを必死で誤魔化すように、深呼吸する。
ダメだ。
深呼吸なんてしても、全く役に立ちそうにない。
「雪乃ー。早く戻って、皆さん雪乃待ちだよー」
会議室から顔を出し、私を呼んだ佳乃の顔を確認したけれど、見慣れた佳乃の顔を見てもダメみたい。
緊張から手が冷たくなっているし、小刻みに震えている。
それに「緊張」というより「不安」な気持ちになっていた。