・キミ以外欲しくない

「ふぅん。俺が居ないと、問題発生時に君を庇う人間がいないから?」

「いえ、そういう意味では」


「ない」と思うんだけど。
副社長が会議に出席していた間は、緊張とか不安等を感じず。
むしろ「いつもよりも落ち着いていた」気がしたから。


気持ちを上手く説明できない私を気に留める様子もなく、副社長から「ここは? 話を詰めてないじゃないか」と会議の内容について指摘された。

副社長が座るデスクに歩み寄り「ここだよ」と指をさされている箇所に目を落とす。
そこには『モデルルーム用備品等選出』と記されていた。


「あぁ、そこですよねぇ」


濁した返事をしたのがまずかったのか、副社長は下から私を覗き込んだ。
上目使いで見つめられ「ドキッ」としたことは言うまでもない。

動揺を隠すように平静を装い、副社長から身体を離し「実は……」と切り出した。


「私自身、ごく普通の家庭で育っていて。就職した今も、普通のアパートに独り暮らしで。高級な家具とか、ハイブランドのジュエリーや洋服なんて持っていなくて」


実際に、高給取りの女性が暮らしているマンションの部屋やら家具、身に着ける物さえも想像がつかないでいることを口にする。


「あの提案書は、私の夢と理想を詰め込んだ。いわばシンデレラ空間で……」


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