・キミ以外欲しくない
「副社長、こんな高価なワンピース。私には払えません」
袖を通してしまったら、お買い上げ確定じゃないか。
その前に返さなくては。
「値札が付きっぱなしなのか? ならタグは外せよ」
「そうじゃなくて、私の話聞いてます?」
「心配するな、支払いは済んでる」
「はぇ?」
どういうこと?
「買取してあるから、汚そうが破ろうが君が支払う必要などない」とリビングから聞こえた副社長の声に、慌てた。
これは、副社長が私に購入してくれたワンピースということだからだ。
「頂けません、こんな高価な……」
「着なければ今夜の夕食は抜きになるぞ。それに、俺はもう腹が減り過ぎて待てない」
ひえぇぇっ。
声が、冷たく変わったぁ。
こりゃ本気だよ、言われた通りにしなきゃ。
「今、着ます!」
慌てると背中のファスナーが上がらないのは、お笑いみたい。
頑張っても、手が届かない場所で止まってしまっている。
「おい、まだか?」
待ちきれず、部屋をノックしドアを開けた副社長に、思い切り背中が開いたワンピースに苦戦する姿を見られてしまった。
一瞬、時間が止まった様に両者が固まった。