・キミ以外欲しくない
どうして副社長は、こんなに良くしてくれるのだろう。
いくら優しくしてくれるのが、仕事を成功させたい気持ちからだとはいえ。
私、ちょっと副社長に近づきすぎじゃないかな。
「出来た、行こう」
連れて行かれたのは、最上階の展望レストラン。
きっと常連なのだろう、案内された席は薄暗い店内の中でも、特別死角になるような席だった。
ブルーのワンピースを着た姿が、夜景の見える窓ガラス越しに映っている。
その姿は、自分ではないみたい。
例えていうなら、魔法がかかったシンデレラのようで。
副社長も、スーツ姿で王子さまみたいに見える。
椅子を引かれ、腰を落とす。
タイミングよく椅子を押され、ちょこんと着席した私のぎこちない座り方に、副社長は微笑んでいる。
「笑わないでください、こんな事されるような場所で食事したことないんですから」
「ごめん、悪かった」
メニュー表など開いてみても、何が何だか見当もつかない。
早々に諦め、オーダーは副社長に任せてしまった。
香りの良いワインに前菜、スープに続き。
メインは、お肉とお魚が運ばれてきた。
何を口にしても舌鼓を打つ私を見ては、満足そうな表情を浮かべている副社長の顔が、今朝会った時よりも、格段に緩んでいるのが分かる。