・キミ以外欲しくない

「どうしたんですか? 食べないんですか?」

「ん? 君が美味しそうに食べている姿を見ている方が面白い」

「なにそれ……っと、すみません。副社長」


うっかり友達といるような感覚で馴れ馴れしく口にしてしまい、慌てて口元を抑える。


いくら副社長が良くしてくれるからって、油断したら普段の言葉遣いになってしまうなんて。
一緒に居る時は特に気をつけなければ。と自分に言い聞かせる私に、副社長が意外な言葉を吐いた。


「そうだな、ルールを決めておこう」

「ルール、ですか?」

「あぁ」


副社長はワイングラスを片手に、静かに話し出した。

基本的にお互いの行動は干渉しない。
出勤も退社も別々なのは当然の事だが、社内では今まで通り接すること、等々。

聞きながら、内心「私達、社内では殆ど会わないんだから、今までと何も変わらないじゃん」と突っ込みを入れてみる。


「社外では、さっきのように普通の話し方でいい」

「でも副社長」


急に言われても困る。
あなたは、わが社の副社長であり時期社長であって。
社外に出ても、その事実は変わらないのに。


「部屋にいる時くらいは、副社長と呼ばれたくないんだ」

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