・キミ以外欲しくない
「じゃあ、何てお呼びしたらいいんですか? 国領さん? ……なんか変な感じです。違和感ありますよ」
「真司郎でいい」
「もっと無理です!」
って、なんだこの会話は。
さっきから私達、付き合いたてのカップルみたいな話してない?
すぐに呼べるわけもなく、副社長の視線から逃げるように視線を外し、外の夜景に目を向ける。
店内の照明も重なり、夜景は一段とキラキラしてみえて夢の中に居るような気分になっていた。
「真司郎」
夜景を眺めていた私は、副社長を呼ぶ声に反応し振り返る。
ダブルのスーツをオシャレに着こなしている老人、よく見れば社長ではないか。
突然の社長登場に驚きを隠せないでいる私とは違い、さすがは親子。
副社長は顔色一つ変えずに「親父」と呟いた。
「珍しいな、お前が女性と一緒に居るなんて。こちらのお嬢さんは、どなたかな?」
顔を向けられ、思わず椅子から立ち上がろうとした私の手を、副社長に掴まれ。
アッサリと座らされてしまう。
副社長の部屋にお世話になると決めた初日の夜に、社長に会ってしまうなんて。
何と答えれば、この場を切り抜けられるのだろう。