・キミ以外欲しくない
「社長は副社長に用があったから、声をかけてきたんですよね?」
「違うだろ。たまたま入店したら俺が居る事を知らされ、しかも女連れだったから、声をかけてきたんだろうな」
周囲に女の影が見えない副社長を心配し、以前から社長はお見合いを勧めていたらしい。
あまりにしつこい誘いだった為、つい口から出まかせで「結婚を前提につきあっている相手がいる」と嘘をついてしまったというのだ。
「あー、参った。まさか、君といる時に見つかるなんて」
「それはこっちの台詞です。どうするんですか? 社長、完璧に誤解しちゃいましたよ?」
これまでの社長と副社長の話も知らず、その場限りの嘘をついたつもりでいたのに。
早く社長に訂正しなければ、平社員の私が副社長の想い人だと誤解されたままになってしまう。
そんなことになってはいけない。
この人は我が社の副社長で、次期社長なのだ。
社外で、しかも副社長の自宅であるマンションの上階レストランで、平社員である私と二人きりでいること自体、おかしなこと。
尚且つ結婚相手となれば、相当しいお相手でなくてはいけないはずだ。
どこぞの御令嬢とか、女社長とか。
とにかく、相手が私などでは役不足の何ものでもない。